再録:2017年10月23日
取材・文・構成:鈴木朋幸(トモ・スズキ・ジャパン 社長)
DRAWING RESTRAINT 9 ©2005 Matthew Barney
Production Photo: Chris Winget, Courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels
以下のインタビューは「ART iT」2005年 Summer/Fall号 pp.10-15に掲載した記事を一部改訂したものです。
鈴木朋幸:
子供の頃から、ずっとスポーツをしてましたよね。
だから、アートをやるにしても、ご自身の身体を駆使するのが自然な流れだった、と察します。
そこで「拘束のドローイング」シリーズですが、あれはスポーツとアート両面の要素を見せてますよね。とは言え、勝敗を競う運動競技とは違うし、単に平面作品を描く手段でもない。
あの表現の核は何でしょう?
マシュー・バーニー:
「拘束のドローイング」シリーズは、創造するための思考プロセスです。
あの中で提示してるのは、まず何かを表現したいという欲望。加えて、それを実際に創作するために必要な身体的トレーニングになります。ユニークなのは、その表現活動を邪魔するような動き、つまり抵抗みたいな力も同時に表している点です。
スポーツに例えるなら、絶対に競技場に立てないのに、延々とトレーニングを積むようなものでしょうか。
鈴木朋幸:
「拘束のドローイング」シリーズは、一度きりのパフォーマンスだけでなく、後から再生できる映像作品としても発表してますね。
生身の体を使うがゆえに嘘がつけないパフォーマンスである一方、編集すれば動きが偽れる映像にも転化してきたわけです。
そんな相反する要素の折り合いは、どうつけましたか?
マシュー・バーニー:
「拘束のドローイング」シリーズの一部を発展させたのが『クレマスター』シリーズです。
確かに「拘束のドローイング1」や「拘束のドローイング2」は、事実の記録に近いビデオにもしています。やがて、自ら創造したキャラクターを編集してみたくなりました。そこに物語も加えてみたのです。
ゆっくりですが、体系的なプロセスをもって「拘束のドローイング」シリーズの中に、生のパフォーマンスと虚構のストーリーを交錯させるようにしました。
CREMASTER 3 © 2002 Matthew Barney
Photo Chris Winget, Courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels
鈴木朋幸:
『クレマスター』シリーズと言えば、あのフィルム5作品は、それぞれ特定のロケ地を選びましたよね。その場所が物語の一部として機能するようにも設計されています。
最新のフィルム作品『拘束のドローイング9』は、日本でロケしました。捕鯨や茶道という日本独自のモチーフも使っています。そうした日本に関するものは、どう作品に関わるのでしょう?
『クレマスター』全5部作のように、劇中の傍観者として日本という場所が機能しますか。
マシュー・バーニー:
いつか日本で作品を制作したいと思っていたところ、金沢21世紀美術館の長谷川祐子アーティスティック・ディレクター(当時)が、金沢での個展を提案してくれました。
専門的なことはわかりませんが、神道ではある事象はより大きな世界の一部とみなされ、人間は自然の一部と考えるようですね。そうした見方で自然を捉えるそうです。
まず、それを取っ掛かりにして、ストーリーを膨らませていきました。『クレマスター』シリーズの時みたいにね。
『クレマスター』の各作品では、取り巻く環境や建築物に人物が従属するような描き方をしています。つまり、外部環境が主役で人物が脇役です。
そうした外的な環境の役割を『拘束のドローイング9』で担うのが、捕鯨船の日新丸です。実は、ほとんどのシーンを日新丸で撮影しています。
鈴木朋幸:
最新のフィルム『拘束のドローイング9』は、2002年の『クレマスター3』と同様に、アートとエンタテインメントの狭間に位置するような印象を受けています。
また、捕鯨船の甲板シーンでは、楕円に長方形を重ねた巨大なワセリンの彫刻を登場させましたよね。あの形は『クレマスター3』でも起用したエンブレムじゃないですか。
『拘束のドローイング9』は、技術的にも内容的にも『クレマスター3』の延長線にあるものでしょうか?
マシュー・バーニー:
あの形は「フィールド」エンブレムと呼んでいます。
1987年の「拘束のドローイング1」で、初めて使ったものです。あのエンブレムが意味することは「拘束のドローイング」シリーズ初期から変わりません。
楕円が身体を表し、そこにかかる負荷が長方形です。人がクリエイティブな活動をする時、身体に負荷がかかる様子のシンボルなのです。
言わば、ハリー・フーディーニが大脱出のパフォーマンスをした際、あえて目隠しや手錠をして自分の肉体の限界を探ったようなものです。そんな意味合いが、あの「フィールド」エンブレムにはあるのです。
今回の『拘束のドローイング9』では、その「フィールド」を脱構築しています。もし身体にかかっていた負荷を取り除いたら、どうなるか?それを表現したかったのです。
思うに、何の抵抗もなくなれば、身体は官能的になり、エロチックとも言えるほどに昇天してしまうのではないでしょうか。それから、退化し始めると想像したのです。
マシュー・バーニー「フィールド」エンブレム
鈴木朋幸:
『拘束のドローイング9』では、ビョークと共演してますね。ビョークは音楽も担当しています。ふたりのコラボレーションは、どのように進んだのでしょう?
マシュー・バーニー:
お互いにとって、コラボレーションはとても自然なことでした。
ビョークはこれまで様々のアーティストと協働してるし、僕も今までのフィルム作品で色々なミュージシャンと仕事してきました。
何よりも、彼女の感覚と共通する点が多かったんです。似たような事に関心があったのです。そんな流れで、今回の作品に至りました。
マシュー・バーニー『拘束のドローイング9』(2005)日本公開ポスター・チラシ
デザイナー:FiSH Design
ロゴ:マシュー・バーニー・スタジオ
マシュー・バーニー『拘束のドローイング9』
原題:Drawing Restraint 9
2005年/アメリカ/カラー/35mm/135分/1:1.66/SRD
脚本・監督:マシュー・バーニー
音楽:ビョーク(サウンドトラックCD/ユニバーサル ミュージック)
制作:バーバラ・グラッドストーン、マシュー・バーニー
撮影監督:ピーター・ストリートマン
出演:マシュー・バーニー、ビョーク、大島宗翠(裏千家)
日本の石油精製所。阿波踊りの隊列にタンクローリーが続く。
誉れ高き捕鯨船、日新丸の脇に停車すると、タンクの液体を甲板へと流し込んでゆく。液体は楕円と長方形を組み合わせた「フィールド・エンブレム」型に固化する。
そこへ、小舟で現れた西洋の客人2名が乗船。ふたりは身を清め、婚礼衣装をまとい、茶室へと案内されるが…。
マシュー・バーニーとビョークの初コラボ作品。
【発売中】日本語字幕付 DVD『Art:21 マシュー・バーニー』
米国の美術家、マシュー・バーニー。彼の撮影現場に密着したインタビュー映画。日本語字幕付は、これだけだ! マシュー・バーニーによる伝説的フィルム作品『クレマスター』シリーズ。1994年より8年間をかけて発表したフィルム作品である。全5部作の構成で、その最終章となる『クレマスター3』を2002年にリリースしている。 ファッショナブルでミステリアスな『クレマスター3』は、今なお人気が衰えていない。 しかし、『クレマスター3』の廉価版DVDが市販されることは決してない。なぜなら、数量限定(リミテッド・エディション)DVDを10枚だけつくり、事前に販売しているためだ。 そのリミテッド・エディションDVDは、美術館や美術コレクターが高値で購入している。その売上を『クレマスター3』の制作費に回したのだった。 そうなると『クレマスター3』は、DVDで観れないのだろうか? 答えは「NO」となる。本DVDに『クレマスター3』の本編が、わずかながら収録されている。 本作は、ニューヨーク・グッゲンハイム美術館でロケ撮影するマシュー・バーニーに密着した短編ドキュメンタリーである。撮影現場の様子、完成した『クレマスター3』該当シーンが見比べられるつくりになっている。 そんな貴重な短編ドキュメンタリーを日本語字幕付でDVDに!売切れゴメン!在庫がなくなり次第、販売終了の廉価版。 日本語字幕付 DVD『Art:21 マシュー・バーニー』 英題:Matthew Barney from Art:21 season1 episode "consumption" 2001年/12分/英語(日本語字幕)/16:9 出演:マシュー・バーニー、リチャード・セラ(彫刻家) 提供:PBS(米国の公共放送・教育テレビ) 配給:トモ・スズキ・ジャパン DVDリージョン2(日本仕様) 英語・日本語字幕付 DVD制作・発売元:トモ・スズキ・ジャパン ◎DVDのメニュー画面はありません。 ◎DVDパッケージはビニール袋で梱包しています。 ◎パッケージはシュリンク梱包ではありません。 DVD価格:2,200円(税込み) 送料:500円(税込み、日本国内のみ、全国一律) 合計:2,700円
2020年2月29日(土)〜3月15日(日)、東京都写真美術館ホールで予定したマシュー・バーニー『拘束のドローイング9』(2005)の上映は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2月26日(水)の首相要請を受け、開催を延期させて頂きました。
上映の日時が再調整でき次第、あらためて本サイトにてお知らせします。
ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。
2020年2月26日(水)
トモ・スズキ・ジャパン有限会社 社長 鈴木朋幸
【更新】2020年11月14日
マシュー・バーニーによるフィルム作品『拘束のドローイング9』(2005)の制作スタッフと対談!
フィルム『拘束のドローイング9』で衣装を担当した村上美知瑠(衣装作家)をゲストに迎えた無観客トークをトモ・スズキ・ジャパンのYouTubeチャンネルで公開しています。
【無観客トーク】マシュー・バーニー『拘束のドローイング9』衣装担当
村上美知瑠(衣装作家)その1
― マシュー・バーニー『拘束のドローイング9』で衣装の素材は、皮・革でした!
― 未使用分を小型カメラで見てみましょう
【無観客トーク】マシュー・バーニー『拘束のドローイング9』衣装担当
村上美知瑠(衣装作家)その2
― マシュー・バーニー『拘束のドローイング9』の衣装担当に抜擢されたキッカケは、飲み会!
― なんともニューヨーク的だよね?
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