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【写真レポート】「アピチャッポン・ウィーラセタクン:プリミティブ」展、香港のM+で開催中



アピチャッポン・ウィーラセタクンの個展が、香港のM+で開催されています。


20年以上、アピチャッポンと協働するトモ・スズキ・ジャパン有限会社の鈴木朋幸 社長が、自前のiPhone 15で撮影した写真で展覧会を紹介します。

 

【マルチ映像インスタレーション】

アピチャッポン・ウィーラセタクンによるマルチ映像インスタレーション「プリミティブ」は、2009年に完成しました。東西冷戦に翻弄されたタイ北部のナブア村で撮影されています。全部で8画面7点の映像からなるインスタレーション作品です。


マルチ映像インスタレーション「プリミティブ」を構成するのは、以下7点8画面の映像となります。


・2面マルチ映像《プリミティブ》

・映像作品《A Dedicated Machine

・サイレント映像《An Evening Shoot

・映像作品《ナブア》

・ドキュメンタリー映像《Making of the Spaceship》(宇宙船をつくる)

・映像作品《ナブアソング》

・ミュージックビデオ《I'm Still Breathing》(僕らはまだ息してる)


インスタレーション「プリミティブ」の映像7点(8画面)に加えて、同時期に撮影した別の映像作品1点、短編映画1作、大判写真2点、アート本などを一緒に展示するプランをアピチャッポンは好みます。今回のM+での展示も例外ではありませんでした。

 

2009年ドイツ・ミュンヘンでの展示


【世界各地で展示】

アピチャッポンの個展「プリミティブ」は、2009年のハウス・デア・クンスト(ドイツ・ミュンヘン)を皮切りに、FACT(英国・リバプール)、パリ市近代美術館(プランス)、ニューミュージアム(米国・ニューヨーク)へと巡回しました。


日本では、2011年に「第8回 横浜トリエンナーレ」で展示されています。会場は、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)でした。


2012年には、東京・青山のCNAC LAB(当時)で「プリミティブ」を構成する7映像作品(1作品は2画面シンクロ)を個別に上映する企画がありました。


この点から、「プリミティブ」は変幻自在な可変式インスタレーションであると読み取れるでしょう。


決まった配置をする映像インスタレーションではなく、会場にあわせて展示や上映のスタイルを変えられる作品なのです。


2009年英国・リバプールでの展示

 

【「プリミティブ」プロジェクト】

アピチャッポンによるマルチ映像インスタレーション「プリミティブ」は、「プリミティブ」プロジェクトの一部でした。


「プリミティブ」プロジェクトとは、アピチャッポンが率いる同じスタッフが、同じ予算管理のもと、タイ北部のナブア村で別の作品を制作したものです。


その「プリミティブ」プロジェクトの長編映画が、アピチャッポン監督『ブンミおじさんの森』(2010)でした。同作は、2010年「カンヌ映画祭」でパルムドール(最高賞)を受賞しています。


 

Apichatpong Weerasethakul: Primitive(アピチャッポン・ウィーラセタクン:プリミティブ)展


展覧会名:Apichatpong Weerasethakul: Primitive(アピチャッポン・ウィーラセタクン:プリミティブ)


会期:2024年3月8日〜開催中

休館:月曜日


会場:M+ (地下2階のThe Studio)

住所:M+, West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon(九龍博物館道38號西九文化區M+)


料金:無料(M+で開催されている他の展覧会は有料です)

 

会場は地下2階。エスカレーターで降ります


入口のサインボード。英語部分のみ撮影しました


作品名と展示プランは、会場内に掲示されています。会場はL字型の巨大空間


入口から見えるのは、大判写真《ザ・フィールド》(2009)。タイ・ナブア村の稲田に火が放たれた瞬間をとらえた作品です


入口から、左右に分かれる展示構成。左では天吊りガラスに映像作品《ナブアの亡霊》(2009)が投影されています。同作は8画面7点の映像インスタレーション「プリミティブ」とは別ですが、アピチャッポンが好んで「プリミティブ」と同じ会場に展示してきました


入口から、左右に分かれる展示構成。右では天吊りガラスに映像作品《ナブア》(2009)が投影されています。同作は8画面7点の映像インスタレーション「プリミティブ」を構成する一部です


入口正面にある大判写真の裏には、コの字型のブース。ドキュメンタリー映像《Making of the Spaceship》(2009)を投影されています。同作は8画面7点の映像インスタレーション「プリミティブ」を構成する一部です


入口からコの字型ブースで左右に分かれ、合流した正面には大判写真《ゴースト・ティーン》(2009)が掲示されています。その手前の天吊りパネルでは《ナブアソング》が放映中。同作は8画面7点の映像インスタレーション「プリミティブ」を構成する一部です


大判写真《ゴースト・ティーン》を正面にみて、左の壁に短編映画『ブンミおじさんへの手紙』(2009)が投影。同作はドイツ「オーバーハウゼン国際短編映画祭」でグランプリを獲得しました。


L字型の空間を右に曲がると、2画面マルチ映像作品《プリミティブ》(2009)。赤いカーペットに寝ころがって鑑賞できます。同作は8画面7点の映像インスタレーション「プリミティブ」を構成する一部です


2画面マルチ映像作品《プリミティブ》(2009)の左右に天吊りパネルが配置。左には《A Didecated Machine》が、右には《An Evening Shoot》が投影されています。どちらも、8画面7点の映像インスタレーション「プリミティブ」を構成する一部です


《プリミティブ》の裏側で、ミュージックビデオ《I'm Still Beathing》(2009)が投影されています。タイのバンド、Moderndog(モダンドッグ)でボーカルをつとめるPodの曲。有線ヘッドフォンで聴きます


展示プラン。拡大版

 

Courtesy of Apichatpong Weerasethakul Photo by Supatra Srithongkum and Sutiwat Kumpai


アピチャッポン・ウィーラセタクン(映画作家・アーティスト)


バンコク生まれ、タイ北東部のコーンケーンで少年時代を過ごし、チェンマイを拠点に活動中。


1994年から、短編映画やビデオ作品の制作を本格的に開始する。2000年には初の長編映画『真昼の不思議な物体』を発表。映画と並びアートの分野でも、1998年以降は世界各地で個展を開き、主にインスタレーションを展示してきた。今なお第一線で活躍する映画監督であり、同時に世界中から称賛されるアーティストでもある。


アピチャッポン監督の映画は、記憶や喪失、アイデンティティ、欲望、歴史などのテーマが交錯するストーリーが特徴。これまで国際的な評価の証として、数多くの賞が贈られてきた。


2002年に映画『ブリスフリー・ユアーズ』が「カンヌ映画祭」ある視点賞を受賞。2004年『トロピカル・マラディ』が同映画祭の審査員賞。2006年に完成した『世紀の光』が、2010年に複数の媒体で「過去10年間のベスト映画」に選ばれている。2010年には監督作『ブンミおじさんの森』が、タイの映画史上初となる「カンヌ映画祭」パルム・ドール(最高賞)に輝く。その後、初めてタイ国外で撮影したティルダ・スウィントン主演の映画『MEMORIA メモリア』が、2021年「カンヌ映画祭」で二度目の審査員賞を受賞。


アートの分野では、チャイ・シリとの共同制作で「シャルジャ・ビエンナーレ金賞」(2013年)を受賞したほか、個人として「福岡アジア文化賞」(2013年、芸術文化部門)、「ヤンヒョン賞」(2014年)、「アルテス・ムンディ8」(2019年)に輝いた。


チェンマイのMAIIAM現代美術館、カッセルのドクメンタ、台北の台北市立美術館などで展示歴があり、テート・モダン、ルイ・ヴィトン財団、ポンピドゥー・センター、東京都現代美術館、香港のM+、バルセロナ現代美術館、サンフランシスコ近代美術館といった世界の名だたる文化施設に作品が所蔵されている。


マルチ映像インスタレーション「プリミティブ」を中心に据えた個展は、2009年にミュンヘンのハウス・デア・クンストを皮切りに、リバプールのFACT(Foundation for Art and Creative Technology)、パリ市近代美術館、ニューヨークのニュー・ミュージアムへと巡回した。


近年は舞台作品にも取り組み、上映パフォーマンス「フィーバー・ルーム」やVR作品「太陽との対話(VR)」を手がけている。

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