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映画監督・美術家、アピチャッポン・ウィーラセタクン​。その音源をつくる!清水宏一 特別インタビュー(再録)


Photo: Chai Siris

再録:2017年10月23日

出典:2016年1月初出 ムヴィオラ「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ」用メール・インタビュー


この記事の原典は、ムヴィオラのFacebookページ「アピチャッポン映画」に掲載されました。

 

ムヴィオラ:

清水さんはいつからタイに住んでいるのですか?住み始めたきっかけはなんだったのでしょう?


清水宏一:

20歳代の前半からタイと日本を行き来するようになったんですが、本格的に住みだしたのは2003年からです。


1990年代後半から東京で本格的に音楽をつくるようになりました。でも、東京の環境にはイマイチ馴染めませんでした。そうは言っても、音楽に関しては多くのことを学んだので、それをどこかで活かせないかなと思い…知り合いもいたし、言葉も話せたのでバンコクに引っ越すことにしたのです。


ムヴィオラ:

アピチャッポン監督とはどのように出会ったのですか?

清水宏一:

タイに来て、CM音楽等の制作をするようになったんです。そこで『トロピカル・マラディ』(2004)の録音・サウンドデザインを担当していたアクリットチャルーム・カンヤーナミット(リット)と知り合いました。


そして、アピチャッポン監督に紹介されました。その後『世紀の光』(2006)の制作に参加させてもらいました。2005年から2006年にかけてですね。


ムヴィオラ:

映画『世紀の光』(2006)、映画『ブンミおじさんの森』(2010)、そして舞台作品「フィーバー・ルーム」(2015)。以上が、アピチャッポン監督との仕事でしょうか?

すべてアピチャッポン監督との仕事はリットさんと一緒に手がけているのですか?


清水宏一:

ほかにもアピチャッポン監督の短編映画やインスタレーション作品なんかにも、僕の音素材が使われていると思います。


基本的に監督と密に作業するのはリットなので、僕はつくった素材や曲を彼に渡して、どれをどのシーンで使用するかは監督と彼で決めています。リットは監督の初期の作品からずっとサウンドデザインやミックスを担当しているので、監督も彼のことはもの凄く信頼しています。


ムヴィオラ:

アピチャッポン監督との仕事はどのようなやり方で進めるのですか?例えば、他の監督との仕事と比べてみて、アピチャッポン監督の音響の好み、特徴はどんなところだと感じますか?


監督からの指示、注文は具体的にあるのでしょうか?映画制作のどの段階で音をつくるのでしょうか?


清水宏一:

タイの映画監督の中では圧倒的に音にこだわると思います、アピチャッポン監督は。結構はっきりした好みはあると思うんですが、どういった音を求めているかは毎回予想不可能です。作業を始める前に監督が思い描いているイメージの説明はあるんですが、抽象的なので、それをどう解釈するか毎回悩みます。


デモの段階で常に監督に聴いてもらって、コメントをもらい方向性を決めていく感じです。実験性を持ちつつもアカデミックになり過ぎない音が好きな様な気がします。


ムヴィオラ:

アピチャッポン監督『世紀の光』(2006)における、具体的な音響のポイントを教えてください。


清水宏一:あれは、初めて参加した作品なので色々なことを試しました。でも、基本は映画内で使われている印象的な音を取り出して、加工したものを監督に渡しました。それから、バンコクの色々な所で採集したフィールド・レコーディング素材も加工して使用しています。


ムヴィオラ:

アピチャッポン監督『ブンミおじさんの森』(2010)は、森の音など自然界の音の使い方が強く印象に残りました。音の収集も含め、この映画では何をポイントにしましたか?


清水宏一:

森の音に関しては、アピチャッポン監督とリットがスタジオに何週間も籠ってつくり上げています。


聴こえる虫や鳥の鳴き声とかも、監督が気に入らないサウンドはひとつひとつ取り除いているらしく、かなり根気のいる作業だったようです。僕も作品は森が舞台ということは聞いていたので、実際に森や川にミュージシャンと行って録音した素材を加工して監督に渡しました。でも、残念なことに…あまり使われなかったです。


ムヴィオラ:

アピチャッポン監督の『世紀の光』(2007)と『ブンミおじさんの森』(2010)はともに、音楽も環境音も動物たちの声も、すべてあまり区別なく“自然音”として聴こえてくる印象を受けたのですが、清水さんには、この2作の音楽はどんなふうに聴こえましたか?


清水宏一:

アピチャッポン監督もリットも、あたたかくてオーガニックな音が好きなので、ひとつひとつの要素をあまり主張させ過ぎず、全体が鳴ったときに出来る自然音のオーケストレーションみたいな物をすごく上手に作り上げていると思います。それでいて監督独特の、きれいにまとめ過ぎないバランス感覚が音にも現れているのが特徴じゃないでしょうか。


ふたつの作品の間で一番感じたのは完成度の差ですね。それは毎作感じることです。制作スタッフは(出演者もそうですが)初期作品からずっと同じ顔ぶれなので、彼等の成長具合が作品に顕著に現れていると思います。


ムヴィオラ:

アピチャッポン監督『光りの墓』(2015)の音響には清水さんは携わっていないですが、すでにご覧になっているとのこと。感想をきかせていただけますか?


また、アピチャッポン監督はタイで長編映画を撮るのはこれが最後かも知れない、と発言しています。そうならざるを得ない状況を、清水さんはどのように感じていますか?


清水宏一:

『光りの墓』(2015)は韓国の光州で観ました。まだ一度しか観ていないのですが、監督の作品の中で一番好きかもしれません。会話が多く、テンポも他の作品に比べて速いので見終わった後はちょっと疲れました。でも、それだけ作品の世界観に引き込まれたんだと思います。是非、多くの人に観て頂きたいです。


もともとアピチャッポン監督は、タイではタブーとされている事柄を作品の中で比喩的に表現することが多く、『世紀の光』(2006)では検閲の問題がありました。 『光りの墓』(2015)もそういう描写があったので、タイでの上映は不可能のようです。


特に、近年タイでは軍政権によって言論に関する取り締まりがすごく厳しくなってきています。恐らく今後もますます厳しくなっていくのではないでしょうか?監督の意図はわからないですが、もしかしたらそういう状況に嫌気がさしているのかもしれないですね。


あと『光りの墓』(2015)で、監督がタイで描きたいことは、すべて描ききったのかも知れないですね。舞台を外国に移して監督がどんな映画を作るのか、すごく興味があります。


清水宏一

山梨県出身、バンコク在住。タイの映画音楽、CM音楽制作を手がけながら、インディーズ・レーベル「SO::ON Dry Flower」をマネージメント。またライブイベントなどを行うアートスペース「SOL」を運営している。

映画では、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督のほか、ペンエーグ・ラッタナルアーン監督、アーティット・アッサラット監督といった、国際的な賞を受賞した監督と仕事。

2017年アピチャッポン監督の音源をコンパイルして、アルバム「Metaphors(メタファーズ)」を発表。


【参考】清水宏一の関連記事

オトネタ. (2015).「謎の現地邦人“清水さん”とタイの最新ロック」:


山本佳奈子. (2011). webDICE「『ブンミおじさんの森』の音響を手がけた清水宏一さんに聞くバンコクのアート系映画とインディーズ音楽シーンの現状」: http://www.webdice.jp/dice/detail/3121/


V.Aアルバム『Metaphors(メタファーズ)』


Selected Soundworks from the Cinema of Apichatpong Weerasethakul Compiled by Akritchalerm Kalayanamitr(a.k.a. Rit) & Koichi Shimizu


アピチャッポン・ウィーラセタクンが、それまでに使用した音をコンパイル!

1枚のアルバムにして発表


アルバム『メタファーズ』

セレクテッド・サウンドワークス・フロム・ザ・シネマ・オブ・アピチャッポン・ウィーラセタクン

コンパイルド・バイ:リット(アックリットチャルーム・カンラヤーナミット)& 清水宏一


UNKNOWNMIX 44 / HEADZ 219 / 価格:2,500円+税


​1 Reverberation: Koichi Shimizu(5:10)

2 Straight: Fashion Show(4:29)

3 Dawn of Boonmee: Akritchalerm Kalayanamitr(6:12)

4 Sharjah and Java: Akritchalerm Kalayanamitr / Koichi Shimizu(13:57)

5 Mekong Hotel: Chai Bhatana(2:53)

6 The Anthem: Chaibovon Seelukwa(2:27)

7 Jenjira's River: Koichi Shimizu(4:09)

8 Smile: Kantee Anantagant(2:30)

9 Intimacy: Peerapong Chalermyothin(2:42)

10 Memory of the Future: Koichi Shimizu(8:01)

11 For Tonight: Nophalux Kosakorn(2:56)

12 Roar: Akritchalerm Kalayanamitr(8:32)

13 Destiny: Apinya Unphanlam(2:56)

14 Acrophobia: Penguin Villa​(4:28)

 

なんだ、とっくに先取りされていたじゃないか、

というのが初印象である。


『Metophors』がとても『async』的なので驚いた。


しかしそれでは自画自賛がすぎるというものだ。 元々映画における音/音楽というものは『async』的なもので、 ぼくはただそれを追随したに過ぎない。


それにしても、ここには音/音楽の全てがある。

神秘、過去、夢、揺れる葉、鳥、昆虫、夜明け、雑踏、朝食の準備の湯気、 河の流れ、割れるグラス、バイクなどなどが。


つまりとても美しい一つの映画が。


坂本龍一


 

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